遠隔診断支援システム



専門医と開業医との密接な連携をめざす
 21世紀には日本の人口の25%は60歳以上の高齢者となり,本格的な高齢化社会を迎える.保健・医療は常に社会の最重要課題の一つであるが,高齢化社会では,多くの人が医療に何らかのかかわりあいを持つことになり,保健・医療の重要性はますます高くなる.また,医療は年々高度化専門化の度合を深めており,大学病院等は高度先進医療を中心に行う機関になっていくであろう.そこで,日常的な健康維持や慢性疾患のケアはおのずから診療所や開業医の分担となっていくことになる.ホームドクターと専門医との分業である.ホームドクターは患者に密接に接し,日常的な診療で健康管理を行い,専門医は,専門的な医療を必要とする患者のみを受け入れて高度な医療をする.このような形態が21世紀には定着するのではないだろうか.
 そこで必要となるのが,大学病院などの専門医と診療所・開業医との密接な連携である(図1).
図1
患者の環境や病歴をすべて知り患者と全人格的に接することのできるホームドクターと専門的に豊富な経験をもち先進的な医療技術をもつ専門医が適切な連携をとることが,最適な医療を施すために必須となる.
 現在でも病診連携(基幹病院と診療所・開業医との間の連携)は行われているが,組織的にきめ細かく行われているわけではない.しかしながら,その必要性は年々高まっていくことになる.そこで,マルチメディアの登場となる.将来はすべての診療所や病院がコンピュータネットワークで接続され,マルチメディア通信をベースとした病診連携システムが定着していくものと考えられる.
 医療に通信はこれまで用いられておらず,離れた場所をネットワークで結んで医療を行ういわゆる遠隔医療は新しい医療の創生ということになる.このため,遠隔医療の実施のためには,技術面だけでなく,医療の中にどのように遠隔医療を取り入れていくのかという医療システムの改変や法規制の改正を行うことが必要である.
 本稿では、遠隔医療の在り方を探ることを目的として1995年10月より実際に本システムを用い行なわれている実験について述べる。


遠隔診断支援システム実験概要
 われわれは,名古屋工業大学,名古屋大学医学部,名古屋市医師会および沖電気工業と共同で,将来の病診連携システムのさきがけ的な実験プロジェクトを遂行中である.そこでは,名古屋大学医学部放射線医学講座,同附属病院医療情報部と名古屋市医師会協同組合健診センター・上飯田第一病院および名古屋工業大学を高速・広帯域バックボーンネットワークを接続した遠隔診断支援システムの実験を行っている.これはNTTマルチメディア通信共同利用実験の一環として行われ,通信回線はNTTから無償で供与される.実験は95年10月に始まり97年3月まで継続する予定である(図2).
図2
この遠隔医療支援システムでは,離れた場所にある市中医療機関と大学病院を結んで,診断依頼や診断報告の高速通信,画面共有とテレビ会議によるテレコンファレンスなどを行うことができる.
 図2に実験サイトの位置関係を示す.名古屋の4施設に5システムを設置してある.これらのシステム間は図3に示すように,156Mbps(名大-名工大間)と6Mbps(その他の施設間)の回線容量を持つ光ファイバーで接続されている.ただし,これは光ファイバーの通信容量全体の数値であり,この実験では,端末側の通信速度能力の限界のため,ピークセルレートという値で,実際の通信容量を制限している.このピークセルレートを図3中の通信容量を示す数値の左側の数値で示している.
図3


実験システムと実験状況
 診断を効率良く行なうためには医師と医師の間で同じ資料をもとに、リアルタイムで議論できることが望ましい。そこで、本システムでは同じ医療情報をお互いの端末で表示しながらテレビ会議を行なう環境を実現した。
 また、一方の病院の持つ心電図やX線フィルム等の医用画像を精度良く読みとり、それを接続先の病院に高速伝送、表示し、お互いに共有しながら議論が行なえる必要がある。本システムでは、X線フィルムをデジタル化するのに高精細スキャナ,通信回線はATM回線,画像の表示には、24インチグレースケールモニタを用いて,その環境を実現している。
 本システムは,図4に示すように,パソコン(マッキントッシュ),カラーモニター,グレースケールモニター,スキャナー,テレビ会議装置,ビデオカメラ,スピーカー,ATMルーターから構成される.
図4
このように本システムは医療情報の高速伝送および共有、テレビ会議などの機能を備え、医師と医師が同じ資料をもとに、お互いにリアルタイムのテレビ会議を行ないながら議論できる環境を提供している。  現在試験的にシステムを運用し、遠隔診断を行なっている。図5は実際に本システムを医師がオぺレートしている様子である。
図5
この図のように,まず,市中病院側(上飯田第一病院,名古屋市医師会健診センター)の医師が医用画像をスキャナーによってディジタル画像データとし,それを大学病院(名大病院)に伝送する.すると,大学病院側の医師が送られた医用画像の診断を行い,診断結果を市中病院にメールで通知する.最後に,両者がグレースケールモニター上に医用画像を表示し,テレビ会議で互いに相手の顔を見ながら,マウスで病巣部をポインティングして,症例検討を行う.最後の協調作業により,患者の状態を把握している市中病院医師と,専門知識を持つ大学病院医師が,あたかも実際に会って議論をするような雰囲気の中で,的確な症例検討を行い,診断を行うことができる.
 図6に,医用画像を通信するのに要する時間を示す.このように,45秒から150秒程の高速な通信を実現している.
図6
これは,モデム通信の約1000倍の速度と考えられる.図7に,医用画像のサイズと画像データの大きさを示す.

図7
 これまでに,単純X線画像,X線CT画像,FCR画像について,実験を行ったところ,実験に協力して頂いている医師より,画像伝送時間,画質を含め,十分に実用に耐え得るという評価を頂いている.ユーザインターフェースがさらに改良され早く簡単に操作できるようになれば本遠隔診断システムを実用に供することができるとの評も得られた.
 また,医用情報がディジタル化が進行し,そのフォーマットの共通規格もほぼ固まりつつある.そこで将来的にCT,MRI,FCRなどの医用装置と遠隔診断支援システム直結も十分に考えられることである.今回の実験では,フィルムスキャナーにより画像のディジタル化を行なっているが,今後,本実験の中で,CT装置等との間でディジタル画像データの直接伝送についても行なう予定である.


まとめ
 遠隔医療が実際に医療現場で使われるためには,将来,遠隔医療に実際に携わるであろう医師や医療関係者のニーズや意見を集約し,それを踏まえたシステムとすることも重要である.われわれは,こうした医師や医療関係者と一体となってこれからの医療を研究するため,東海テレメディスン(TTM)研究会を設立し,病診連携のための遠隔医療情報システムはどうあるべきか,その具体像を明らかにしていきたいと考えている(ホームページhttp://mars.elcom.nitech.ac.jp/~iwata /を参照).
 また,厚生省は,遠隔医療に健康保健を適用する方針を決め,平成10年度の実施に向けて,具体的な検討を開始した.遠隔医療が実用化されるのもそう遠い将来ではなく,非常に現実味を帯びてきている.